ベルツリー・オーストラリア 鈴木崇雄さん①

豪州で「Wagyu」の人気が上昇中だ。豪州の和牛産業は国内のみでなく、海外市場に出回る和牛の9割を生産するまでに成長している。そんな豪州のシドニー近郊ブルーマウンテンで、和牛生産を行っている日本人がいる。日本で「和牛」の定義確定や遺伝子の輸出規制強化が図られている中、「海外には和牛の定義がない」と語る鈴木崇雄さん(ベルツリー・オーストラリア代表取締役)に、生産者の立場から見える業界状況を聞いてみた。【聞き手・米山亜里沙、西原哲也】

──まず、鈴木さんの和牛生産について教えていただけますか

2006年にブルーマウンテンで事業を開始し、和牛の肥育を始めて2年、販売を開始して1年が経ちます。元々大手の輸出向けの牛肉を生産しているフィードロットで仕事をしていたのですが、自分でやるんだったらそういうところではできない和牛を生産したいと。牛舎を利用したり日本のシステムに近いようなことをやりたいと思ったのです。

現在は、2週間に1回出荷するペースで月に2頭ほど出荷しています。まず食肉解体所で枝肉にし、それを肉屋で解体します。その後、シドニーとメルボルンにいる日系の肉販売業者の方に販売しています。今後は飼育頭数を200頭くらいに増やして、来年末か再来年頭くらいからは年50頭くらい出荷していきたいです。

輸出は今のところ考えていません。輸出向けには、特定の解体所での処理が必要で、頭数も数十頭単位のため、ここでは規模が小さすぎます。また大量の和牛を扱うことで、生産の管理が難しくなります。国内市場で信頼関係を築いてきており、安易に輸出を行い、輸出向けも危うくなったときに国内市場にまた戻っても、もう市場がない可能性もあるのです。

──鈴木さんが目指す和牛はどのようなものですか

豪州産和牛などは偽物で、大した遺伝子も持っていないだろうと下に見られがちでした。豪州内でも、これから日本から新しい技術が入ってこなければ、豪州の和牛はだめになるのではないかという雰囲気がありました。でも和牛というのは、血統も大事ですが、それ以上に牛の管理や餌のやり方などの肥育技術があの肉質を作っているのです。いわば、和牛は「工芸品」みたいなものです。子牛から出荷まで常に手を抜かないということです。それは和牛の血統だけを持ってきてもそうはなりません。そこを証明したいです。

またレストランで使われている和牛の部位はまだ限られているのですが、私の和牛は半頭か1頭で買ってもらっているので、「鈴木の和牛だからこんなところも食べられる」というのを発見してもらいたいと思います。

それと、私はあまり間に人を入れずに直接消費者に近いところと話をしながら、今度はどんな牛が出てくるのかというところまで伝えていきたいと思っています。ともすれば牧場に来て実際の和牛を見てもらい、ただ単にいい牛肉だけではなくて、なんでこんなにおいしいのかまで分かってもらいたいですね。こういう販売をしている人はほかにいないので、やはりそこまでこだわりたいと思っています。

──鈴木さんの和牛は豪州のほかの和牛とどう違うのですか

ここでは子牛から出荷まですべてのプロセスを手掛けており、一貫した管理を行っています。誰かに委託して肥育だけやってもらうと、そこに自分の目が行き届かないところが出てきます。だから自分のできる範囲で、子牛の繁殖から肥育まで全部やっています。小規模生産で頭数が少ないのはそのためです。

また肉に関して言えば、油の旨みが違います。欧米では和牛を語る際に、脂肪含有度を示す指標マーブルスコアや見た目で話をすることが多いのですが、実際には油の旨みが和牛の特徴だと思っています。日本人がおいしいと思う成分にオレイン酸があります。そのため、私の農場ではエサの配合を調節し、甘味や旨みを感じるオレイン酸が多くなるように育てています。また同じようにサシ(脂肪交雑)が入っている牛肉でも、食べたときにしつこいと思う牛肉とそうでない牛肉があります。私の牛肉は後者で、冷めてもおいしいのが分かります。

──豪州全体では、一般的に和牛の品質管理はどれくらい整っているのでしょうか

品種に関していえば、豪州にあるもので「フルブラッド」と書いてあれば100%和牛です。それは血統証明の取得やDNA鑑定も行っており、そこが偽物ということはあり得ません。5~6代も日本の血統をさかのぼれるようになっています。

ただ豪州では、和牛と呼ばれている商品が全部フルブラッドかというとそうではないのです。実際には、交雑種、つまりアンガス種と和牛などの掛け合わせが90%以上を占めています。

豪州では和牛が入ってきたときに、既存の生産システムに和牛を組み込むというのが手っ取り早かったのです。肥育はそうでもありませんが、子牛の繁殖では和牛だけの繁殖がありませんでした。だからアンガス種の生産者に和牛の種牛を売って、そこでF1と呼ばれる交雑種が作られました。それをフィードロットが買い取るというのが豪州の和牛生産の始まりでした。

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