肉牛が足りない! 生育農家と加工業者の対立激化
- 2016/2/25
- 畜産
オーストラリア北部で肉牛不足が深刻化し、生育農家と食肉加工業者の対立が深まっている。供給減などによる肉牛価格の上昇で農家は少しでも良い価格で牛を売却したいところだが、価格の上昇は加工業者の採算性を悪化させる。国内の食肉処理場では人員削減や減産が相次いでおり、人員削減の流れは当面続く見込みだ。業を煮やしたオーストラリア食肉産業従業員組合(AMIEU)は、食肉加工用の肉牛確保を目的に、生体牛の輸出頭数の制限を声高に叫び始めた。【ウェルス編集部】
AMIEUのグラハム・スミス書記長は、「肉牛の価格上昇は農家にとって朗報だが、食肉加工業の将来を脅かす」と懸念する。オーストラリアで食肉加工業は、自動車製造業がなくなった後の最大の製造業となる見込みだ。加工各社は、人員削減の必要性に直面する中、熟練技術者の確保に迫られている。同組合のマット・ジョルノー書記は、食品加工業界の雇用を守るためにも、生体牛の輸出制限は選択肢の一つだと主張。「生育農家にとって販売先が加工業者だけになってしまうようなことは避けるべきだが、現実的に考えて、北部の食肉加工業の存続に向け各政府は対策を検討する必要がある」と主張している。
国内食肉加工最大手のブラジル系JBSオーストラリアと、2位テイズ・オーストラリアは過去2週間に、スコーン、ボーダータウン、ロックハンプトンなどの処理場で300人以上を削減。中小の加工会社も勤務シフトや勤務日の削減を余儀なくされている。
クイーンズランド州北部タウンズビル近郊にあるJBSの処理場では、昨年末から操業が停止されている。同処理場の従業員580人は、3カ月間近く給与を受け取っていない状態だ。
ジョルノー書記は、タウンズビルでの肉牛不足は、同地からの生体牛輸出の増加と無関係ではないとみる。昨年にタウンズビルから輸出された生体牛は約30万頭で、1日の処理数が約900頭の処理場を1年間稼働させるのに十分な数だという。
オーストラリア食肉家畜生産者事業団(MLA)の今月の発表によると、2015年の生体牛輸出頭数は東南アジアからの需要増を背景に、133万頭と暦年として過去最高だった。今年の輸出頭数はさらに増えるの見方もある。
一方、生体牛輸出業界などは、食肉加工業の主張に反論。北部準州畜産農家協会(NTCA)は、生体牛の輸出制限を「不合理だ」と批判し、牛肉業界の中で生産者、生体牛輸出業者、加工業者が互いに批判しあう現状に懸念を示した。また、オーストラリア家畜輸出事業団(ALEC)も、牛肉業界は全体が肉牛不足に直面しており、生体牛輸出業だけが責められるのは不公平だと主張。牛肉業界は互いに争うよりも団結すべきだと呼び掛けた。
■東南アジアの需要強く
昨年の生体牛輸出では、最大市場インドネシア向けの輸出頭数は約62万頭。成長著しいベトナム向けは推定35万頭と、前年から倍増した。ベトナム向けでは14年からダーウィン港より水牛(バファロー)の生体輸出も始まっている。生体牛価格が過去最高となる中、バファローの価格には値ごろ感があり、需要は今後さらに強まる見通しだ。
また、22日にパースの会合で公表されたフィージビリティースタディー(実現可能性調査)の事前調査では、西オーストラリア州からのタイ向け生体牛輸出に多大な成長機会があることが示された。タイは昨年、オーストラリアから牛9,000頭を輸入している。
■家畜福祉法、全国で施行へ
オーストラリアの農場や陸上輸送における牛や羊の扱いについて全国統一の福祉法が近く施行される。同法は約10年間かけて業界とオーストラリア動物衛生公社(AHA)が協議を重ねて策定したもので、各州・準州政府の農相が全て導入に合意している。法律として施行されるが法的拘束力はなく、指針を示すものだという。
指針では、家畜の誕生からの適切な取り扱い方や、鎮痛剤使用の基準などが示される。
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