500号記念集中連載 オーストラリア酪農業、改革のゆくえ 「第4回 不均衡な関係」

2017年に始まった大干ばつで牛乳の生産コストが急上昇した一方で、大手スーパーの小売価格は低く据え置かれたまま。酪農家の半数が将来を不安視するようになり、調査会社はオーストラリアは乳製品の純輸入国になると予想。酪農業界の先行きに黄信号が灯された。

最終的に牛乳の低価格問題を収束させたのは、政治だった。18年9月、連邦政府のデービッド・リトルプラウド農相がスーパー2社の代表と会談し、「1ドル牛乳は水よりも安い」と指摘、このままでは「酪農業が維持できず、将来牛乳の供給が停止する可能性がある」と強く迫った。

これを受け小売大手ウールワースは2019年2月に、牛乳の小売価格を1リットル当たり0.1豪ドル引き上げた1.1豪ドルで販売すると表明した。だが、長年にわたって酪農家を苦しめたのは、低価格戦略であるのは明白なのにもかかわらず、ウールワースは「干ばつに苦しむ酪農家支援のため」に値上げすると発表、最後まで 低価格の牛乳販売が酪農業に打撃を与えたことを認めなかった。

一方、その後も無言を貫いた競合コールズだが、政界や消費者サイドからの批判が集中、耐えきれず翌月値上げを決定した。

この問題は現在でも尾を引いている。リトルプラウド農相は、20年6月に「わずかな値上げであたかも農家に配慮しているようなイメージを都市部の消費者に植え付け、実際には業界の価値を落とし、問題解決に取り組まないことに失望した」と語気を強めている。

■虐げられる酪農家

生産者乳価の決定に関し、問題視されたことがもう一つある。酪農家と加工会社間の力関係だ。きっかけは2017年シーズン終了直前の4月に、加工最大手の協同組合マレー・ゴールバーン(現サプート)と、フォンテラ・オーストラリア(豪フォンテラ)の2社が、生産者乳価を突如引き下げたことだ。一方的に引き下げた価格を、当該シーズン全体にさかのぼって適用したため、両社に生乳を出荷する農家は、引き下げ分がシーズン終了時の支払い額から控除されることになり、多くの酪農家が最終損失を計上することになった。

この措置は、生乳の供給契約において、加工会社が酪農家に対し、契約内容を一方的に変更できるという有利な内容になっていることを浮き彫りにした。また加工業界に対する信頼感が失われただけでなく、酪農家は不利な契約に縛られ、効率的な投資を実行することが困難な状況にあるという理解が一般に広がった出来事となった。(続く)

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