第53回 食糧安全保障について考える(上)

オーストラリアは農産物輸出大国である。生産された農産物は2,300万人の国内人口のほか、海外の4,000万人を養っている。ただ、国内の人口 は2050年までに6,200万人まで膨れ上がることが予想される中、将来的には国内向けの供給を増やさざるを得ないため、「アジア」の食糧庫になれるか どうか、いささか疑問がある。

自由貿易や市場経済を提唱する新自由主義の下、オーストラリアの農業は現在、どのような課題に直面しているのか、クイーンズランド大学(UQ)の研究を基にひもといてみたい。

大 まかに言うと、オーストラリアは小麦や牛肉、砂糖など、コモディティとして扱われている農産物を輸出している。一方で、缶詰や菓子などの付加価値の付いた 食品や青果などを輸入する傾向にある。こうした中、世界的に食糧需要が高まることで、輸入品価格が上昇することや輸入品の量に限りが出てくる可能性があ る。ここで特に問題視されているのは、野菜と果実だ。すでに野菜は国内需要を満たすだけの生産量がない。

輸入先の国が自国の農産物 価格の上昇を抑えるために、輸出を制限したり、輸入関税を引き下げて輸入を拡大する動きも出てきている。野菜や果実生産は環境要因によっても大きく制限さ れることが予想され、オーストラリアの消費者は穀物と食肉を多く食べざるを得ない状況に陥る可能性が、UQの研究で指摘されている。

農地が投資の的に

一 方で、海外の政府系投資ファンドが、オーストラリアの農地に投資または買収するケースが増えている。外資が保有する農地の割合はごくわずかのようだが、問 題は作った農産物が、自由市場を介さずに自国へ輸出されていることだ。こうした傾向が続けば豪国内に出回る農産物が減り、価格上昇や食糧安全保障を脅かす ことにもつながる。

特にメディアのやり玉に挙がっているのは、カタールと中国からの投資だ。海外政府系投資または大型の投資では外資審議委 員会(FIRB)の承認が必要となるが、大半が承認されているようだ。また民間会社の投資では、審査の対象となる取得額以下で買収するケースも多い。その ため、保護主義的な観点から、審査の厳格化や審査対象となる取得額の引き下げが叫ばれて久しい。

近年もう一つ注目を集めているのが、炭鉱や 炭層ガス開発が農場へ与える影響だ。クイーンズランド州などの一部では、肥沃な農地と資源開発地が重なる地域もある。例えば炭層ガス開発では、地盤沈下や 地下水汚染などが懸念されるが、資源開発から得られる税収は農業のそれをはるかに上回るため、州政府や連邦政府が環境承認を強化したとしても、財源確保の 面で資源開発に軍配が上がることになる。

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