第55回 食糧安全保障について考える(下)

食糧安全保障の定義を大まかに言うと、「すべての人が、健康的に生活するために必要な食糧をいつでも入手できること」(国連食糧農業機関)だ。オーストラリアには食糧安全保障が確保されていない人が、人口の5〜10%(約200万人)に相当する。

この数字を知った時は度肝を抜かれたが、ホームレスや失業者、1人暮らしの高齢者など、十分な所得がなく食糧にありつけない人や、肥満や太りすぎ、高血圧、糖尿病など慢性的な病気を抱える、栄養過多の人も含まれる。実際には、これらは2分されるものではなく、どちらにも当てはまる人が多いのが特徴だ。

シドニー中心部でも多数のホームレスを見かけるが、郊外には低所得地域が点在している。低所得者の場合、収入の5割以上を食費に充てないと健康的な食事が取れないようだ。安価な食事となると、脂肪が多く、高カロリーなものが多い。こうした偏った栄養の食事を取り続けると、心臓病や糖尿病など不健康の渦に陥る。

筆者は食糧に関する慈善団体でボランティア活動をしたことがあるが、その際、食糧を受け取る側はピザやソーセージ、パイなど、高カロリーの食品を求めていることが分かった。さらに、某飲料会社が余った炭酸飲料を提供したいと言ってくることもあるようだが、受け取る側も提供する側も、もう少し栄養面を考えるべきではないだろうか。食糧安全保障は量だけでなく質も重要だからだ。

■国民目線の食糧計画

食糧安全保障の啓発団体シドニー・フード・フェアネス・アライアンス(SDFA)のエリザベス・ミレン代表に話を聞くことができた。彼女は「コミュニティーカフェや低所得者向けのスーパーなどの事業運営にかかわってきた中で、政策レベルでのアドボカシーの必要性を感じていた」と言う。

ミレン代表は課題の一つとして、オーストラリアに「食糧相」がいないことを指摘する。食糧については現在、農林水産相や保健・高齢化相、インフラ・交通相などが扱っていることで縦割りとなっており、包括的に問題をとらえられていないという。

SDFAも加盟する全国規模のオーストラリアン・フード・ソブリンティ・アライアンス(AFSA)は2012年、コミュニティーの声を反映したディスカッションペーパー「国民の食糧計画」を発表。これは労働党政権が発表した「全国食糧計画」に対応したものだ。これらの比較を見ると、食糧安全保障に対する見方の違いに驚く。

全国食糧計画では「農産物生産量の3分の2が輸出され、安定した食糧供給システムがあり、農産物の品質も高いことから、オーストラリアは食糧が保障されている」とされている。

一方、国民の食糧計画では「食糧が保障されていない状況が低所得者層の広範囲にわたっている。国民の9割が推奨されている量の野菜を食べていない上、オーストラリアでは十分な野菜を生産していない」。前者はアグリビジネスや小売り大手、後者はコミュニティーが主体となって考えており、見える景色はまったくと言っていいほど異なっている。

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