第59回 ガの大量発生年

シドニーの中央ビジネス区(CBD)にあるわがオフィスでは、ガが昼間でも飛び交うくらい多く見かける。わが社が入っているホテルビルでは、宿泊客に対して窓を開けないよう働きかけている始末だ。なぜ今年はこんなにガが多いのか。

「ボゴンモス」と呼ばれるこのガは、幼虫の間はクイーンズランド州やニューサウスウェールズ州、ビクトリア州の平地に生息するが、夏の暑さを回避するためにスノーウィーマウンテンズなどの高山に向けて移動する習性がある。キャンベラは移動の行路にあるが、強い西風で行路を外れたガが光に引き寄せられシドニーにたどり着くようだ。

風に乗って、海のかなたニュージーランドまで到達することもある。ちなみに秋になると、高山から繁殖のためにまた平地のふるさとへ戻っていく。

専門家は、今年のキャンベラではガの到来が1986年以来最も早いことから、ガの多さは近年で最も多いとみている。首都圏特別区(ACT)では、最初のガが9月7日に観測され、例年より10日早かった。

小高い場所に建つ新しい国会議事堂では、設立当時の1988年から光に集まるガに悩まされてきたようだ。議会図書館が2005年の報告書で、国会議事堂のあるキャピタル・ヒルは「巨大な誘蛾(ゆうが)灯」になってると指摘。夜中に煌々と光るライトにより、高山に向かうガの飛行を阻害しているという。

ガが大量に発生することで、エアコンやエレベーターの中にたまり、機械が故障する事態に発展することもある。一匹ではどうということはないが、大量になるとさまざまな問題を引き起こしかねない。

ヘーゼルナッツ味

ボゴンモスはスノーウィーマウンテンズ周辺に住んでいたアボリジニが食用としていた。ガが平地からやってくることを知っていた、長年の知恵が生かされたものだろう。タンパク質と脂肪が豊富に含まれていることから、近年ではガを食すことが、大量発生の対処法としても注目されている。

「ブッシュのミューズリーバー」と称されるボゴンモスには、100グラムで1,805キロジュールのカロリーがあり、同じサイズのビックマックよりも多い。

地元紙シドニー・モーニング・ヘラルドでは、ガの調理方法が載っていた。羽を取ってガに油を塗ってパン粉をまぶし、スパイスを付ける。キツネ色になるまで揚げて出来上がり─。

さて、ガの味とは?そのこころは、「バターを付けたヘーゼルナッツ」。オフィスの隅っこに死んでいる死骸を食べる気にはならないが、調理されたものなら試す価値があるかもしれない。

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