第7回 「うどん」は日本とオーストラリアの懸け橋?

今回はうどんにまつわる話です。私はパースに来る前に1年間ほど香川県に住んでいました。香川と言えば、讃岐うどん。香川県に住んでみて、うどんに限らず「食」全般に関して、たいへん豊かで奥深い土地だという印象を持ちましたが、そこから遠く離れた西オーストラリア州パースに来てから、この異国の土地と、香川県との思わぬつながりを発見しました。まさにそのうどんです。

香川県内の製粉会社のウェブサイトなどを調べてみると、讃岐うどんの原料となる小麦粉のほとんどは、ASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)というオーストラリア産の小麦が使われているそうです。このASW、日本のうどんのために開発された、うどん作りに大変適した種類なのだそうで、その主要な生産地が、パースを含むオーストラリア南西部なんです。パースから30キロメートルほど南に小麦輸出用の港があり、そこから香川の坂出港へ、このASW小麦が運ばれているということです。

このASWは、オーストラリアで生産される小麦全体の量からするとごくわずかで、まさに「日本のうどん」のために生産されています。西オーストラリアと日本は食文化や風土はだいぶ異なりますが、「オーストラリアの食材」と「日本の食文化」というのは、意外と相性が良いのではと思います。パースの食事情を知る中で、漠然とそのように感じることがありましたが、この讃岐うどんの事実を知って納得しました。

■日本の味の追求が、豪での工場設置に

さて、パースでうどんを探したらありました。はくばくオーストラリアによる、オーストラリア産の有機うどんです。山梨県に拠点を置く、麦など穀物類の製造販売会社はくばくのグループ会社です。

オーストラリアの日系メディアによると、はくばくは、より良いうどんを製造しようと研究を進める中で、ASWの中でも最もうどん作りに適している品種を探し当てたそうです。しかし、その品種がオーストラリア国外では入手不可能だったことから、これはオーストラリアで作るしかない、と1996年にはくばくオーストラリアを設立したそうです。工場はビクトリア州にあり、有機の原材料を使用して、うどんの他、そば、そうめん、らーめん、茶そばも生産しています。

■豪産うどんが世界に

おいしいうどんを作りたくて追及していった結果、オーストラリアに工場を作った─。はくばくは、最初は日本の人によりおいしいうどんを提供するつもりだったと思いますが、現在は日本だけではなく、オーストラリアや米国など、世界の人々に日本式の高品質うどんを広める役割を担っていると思います。

日本の食文化を高めるために日本を飛び出す、というのは、一見矛盾しているように思えます。ですが、目的を見据えてブレない強さと柔軟な発想。この組み合わせが、新しい世界を切り開いていくのかもしれない、と思いました。その取り組みを応援したくて、私ははくばくオーストラリアの麺類をいつも買っています。これからも、おいしくて質のよい「日本の麺」を、オーストラリアで作り続けてほしいです。

ちなみに、讃岐うどんの食べ方で私が好きなのは、独特の食べ方の一つ、「生醤油うどん」です。大根おろし、ねぎなどをトッピングし、生醤油(しょうゆの一種。加熱処理をしていないため、甘みやまろやかさが特徴)をかけて、すだちもしくはレモンをしぼって食べるものですが、パースでも楽しめるレシピをブログ(http://perth-zanmai.com/)で公開しています。どうぞ試してみてください。

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投稿者プロフィール

名取 知衣子
1973 年東京生まれ。2013 年から西オーストラリア州・パースに在住。夫、ハイスクールに通う長女、プライマリースクールに通う長男の4人家族。日本と異なる生活に試行錯誤するうちに、オーストラリアの豊かな食事情に興味を持つようになる。オーストラリアのローカル食材を使って日本人が手軽に楽しめる家庭料理を研究中。レシピをブログ「パースで手作りざんまい(http://perth-zanmai.com/)」で公開している。