第16回 自分で毛皮を脱ぐ羊、英国に登場!

羊の毛刈りは、牧場経営に携わる関係者にとって、常に頭の痛い問題でした。きれいに刈り取るには熟練技術が必要なことに加え、体重70キロ程の羊をひっくり返したり立たせたりするのはかなりの重労働です。

そのため各国では、牧場経営者の負担を減らすためのさまざまな研究が行われてきました。例えばオーストラリアでは、「バイオロジカル・ウール・ハーベスティング(BWH)」と呼ばれる、まるで着ているセーターを脱がすかのように羊毛を収穫する画期的な技術が、研究・開発されています。同技術の実用化に向けては、キッコーマンの提携企業であるヒゲタ醤油が低価格化を成功させるなど、日系企業も大きく貢献したのは、以前にこの欄でも紹介しました(第2回:日本の醤油会社、驚きの毛刈り法開発)。

■羊毛が抜ける品種を開発

さらに英国では、その一歩先を行く驚きの技術が取り入れられています。英タブロイド紙デイリー・メールのオンライン版「メール・オンライン」によると、英国の牧場では、毛刈りの季節が訪れると、自然に毛皮が抜け落ちる品種の羊が開発されているのです。

英国では羊毛価格が大幅に下落したことで、牧場経営者は羊毛販売による利益だけでは、毛刈りに掛かった費用まで回収できないという悩みがありました。そのため羊の毛刈りは、牧場経営者の間で、長い間厄介もの扱いされてきました。そこで牧場経営者が注目したのが、カリブ海地域に起源を持ち、主に食用として家畜化されているバーバドス・ブラックベリー(Barbados Blackbelly)などの品種です。これらの羊の毛は2層になっており、外側は太く粗く長い「上毛(ケンプ)」に覆われ、肌に近い内側には、産毛のような短く柔らかく細い「下毛(ウール)」が生えています。

ブラックベリーなどの品種は、この下毛が自然に抜け落ちる性質を持ちます。そのため英国の牧場経営者は、これらの品種を輸入し、エクスラーナ(Exlana)と呼ばれる毛刈りの必要のない新たな品種を作り出したのです。

通常の分厚い羊毛を持たないことで、エクスラーナは寄生虫に対してより耐性が強く、薬物投与の回数が少なく済むというメリットがあります。また高額な化学治療を行う必要もありません。エクスラーナの導入により、牧場経営者は大切な時間とお金を毛刈りに費やすことなく、単に羊の毛が抜け落ちる季節を待つだけでよくなったのです。

■羊毛の生産量は減少も

エクスラーナの毛皮ですが、従来の英国の羊と比べると短く薄めです。最初は首回りや足回りから毛が抜け始めます。生産される羊毛の量は、従来の羊の場合では1頭当たり最大で約9キロ。エクスラーナは500グラムほどです。人件費としては、羊1頭当たり年間8英ポンド(約1,100円)の節約になるとか。1頭当たりの生産量が大幅に減ることを考えると採算性には疑問もありますが、牧場経営者の間では、「英国の牧羊史至上、最大の先進的発明」として高く評価されているそうです。ただ羊ファンとしては、人間の都合で羊の品種改良が繰り返されることは、やや悲しくもあります。

 

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