第21回 羊毛産業が消える?野犬襲撃でピンチを測定

オーストラリアは世界に誇る牧羊大国で、羊毛業界の調べによると、国内では約1億1,400万頭の羊が飼育されています。羊が群れをなし牧草を食べるのどかな風景が浮かびますが、近年ではそんな羊の身が危険にさらされる事態が頻発しているようです。

キャンベラの外来種共同研究センター(IACRC)が先に発表した報告書によれば、オーストラリアでは野犬やディンゴによる被害が深刻化しており、ニューサウスウェールズ(NSW)州西部の放牧地では、羊毛生産が向こう30〜40年の間に消滅してしまう可能性があるというのです。

羊を狙う野生動物は近年、数と種類の面で増加を続けており、40年前には野犬が見られなかった場所でも、多数が目撃されるようになりました。これを受け牧羊業者たちの間では、「羊毛産業が過去の遺物になってしまう」として不安の声が上がっています。

増加した野犬が羊を襲う例が増えていることで、羊の数は全国で減少傾向にあります。州によって差がありますが、1990年代半ばからビクトリア州では40%、クイーンズランド州では70%それぞれ減少しており、影響の大きさがうかがえます。

野犬とディンゴの執拗な攻撃

野犬やディンゴは、人のいない夜間に羊を襲うことが多いと言われています。また1頭だけを狙って襲うのではなく、いたずらに羊の群れを追い回すため、数多くの羊がかみ傷を負うほか精神的なショックを受けます。

NSW州バークで牧羊を営むスタンフィールド氏は「過去6〜7年で、野犬による攻撃が10〜20倍増加した」と指摘。これまで同氏が飼育していた子羊は、毎年約80%が野犬の被害から生き延びてきましたが、現在では殺されたり、体の一部に重傷を負い敗血症を引き起こすといった例が増えており、生存率は40%にまで落ち込んでいるといいます。

同様の被害は同氏の周りにいる牧羊業者たちの間でも頻発しており、地元の牧羊業者の約3分の2が羊を手放し、襲われる確率の低い牛へと切り替えたようです。

全国に広がる被害

野犬による被害は、東海岸に位置する州だけでなく、西オーストラリア州のパースでも報告されています。パースの北東270キロに位置するカラニーで牧羊を営むヘスター氏は「1頭70豪ドル(約6,190円)する雌羊と、ほぼ同額の子羊を複数頭失えば、経済的な被害はかなりのもの」と強調しています。また毎朝羊たちの身に何が起こっているのかと不安に駆られながら目を覚ますのは、精神的にも負担が大きいとしています。

野犬対策は大仕事

日本で紹介されている野犬対策としては、舎飼いの場合では、出入り口や窓を閉め切ること、放牧の場合では、牧柵を犬が飛び越えられない高さまで張ることがあります。ただ野犬は柵の下を掘って中に入り込む可能性もあるため、電気柵を張り、柵に触れると危険だということを犬に理解させることが最も効果的な方法と言われています。

しかしオーストラリアやニュージーランドでは放牧地が広大なため、個人レベルでの対策は非常に困難と言えるでしょう。

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