第24回 毛深い羊を人為的に生産!ホルモン操作で

オーストラリアでは、一部の地域で羊毛生産が存続の危機にさらされているのをご存じでしょうか。キャンベラの外来種共同研究センター(IACRC)が発表した報告書によれば、国内では野犬やディンゴによる被害が深刻化しており、ニューサウスウェールズ州西部の放牧地では、羊毛生産が向こう30〜40年の間に消滅してしまう可能性もあるといいます。

野犬被害の拡大により羊の数も全国で減少を続けていることから、牧羊地にロバを用心棒として放つなど、異例の策に打って出ている羊農家もいるほどです。

そこで今回は、そんな現状の救済策となるような、ある大学の研究チームが行った、採取できる羊毛量を人為的に増やす試みについてご紹介します。

コルチゾール抑制が鍵

アデレード大学応用動物科学学部の研究チームはこのほど、妊娠中のメリノ羊の体内で、ストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」の分量を操作する実験を行いました。

実験ではまず、妊娠中のメリノ羊を3つのグループに分け、第1グループには10日間にわたり、胎児の羊毛卵胞の発育にとって鍵となる時期に、コルチゾール抑制剤「メチラポン」を投与しました。

第2グループに対しては、コルチゾールに似た物質を投与。そしてこれら2つのグループを、どちらの物質も投与されていない対照群(コントロール・グループ)である第3グループと比較しました。

同研究チームはこの実験で、妊娠中のメリノ羊の体内のコルチゾール量を減らすことで、出生時により毛むくじゃらの子羊が生まれてくることを突き止めました。これらの羊からは、毎年行われる毛刈りの際に、通常より10%長い羊毛を生産できることも確認されています。

出生時点で違いは歴然

同研究チームのマクドール代表は「われわれの実験結果は、羊の胎児が子宮内にいる時に母親のコルチゾール値を抑制することで、羊が生涯に生産する羊毛量を人為的に増やすことが可能ということを示すもの」と説明。

羊毛生産業者はこれまで、羊毛の生産量を増やすために品種改良に頼ってきましたが、この方法では生産量を大幅に増やすのに何年もかかる可能性があることから、今回の手法は非常に効率の良いものだと強調しています。

マクドール代表によれば、メチラポンを投与した羊から生まれた子羊には、出生の時点で、羊毛の質や量に違いがみられるといいます。コルチゾール値の高い母羊から生まれた子羊の毛は、通常より短めで巻きが強いのに対し、コルチゾール値が抑制された母羊から生まれた子羊の毛は、ゴールデンレトリバーの子犬に似て、長くぼさぼさしているそうです。

ただマクドール代表は、実用化については、現段階ではメチラポンの投与は高額であり、牧羊業者の利益圧迫につながる恐れもあると指摘しています。しかし今回の研究で、羊毛の卵胞発育に関して鍵となる遺伝子クラスターが特定されたほか、これらを操作することで羊毛の生産量を増やせることが示されたことから、将来的にはより的を絞った研究が可能だとしています。

羊の数が減る中、1頭当たりの羊毛収穫量を増やすこの試みは、一見、効果的な取り組みにも思えます。しかし、人為的なホルモン操作の行き過ぎは健康面へ悪影響を及ぼしかねないことから、注意が必要といえそうです。

関連記事

アーカイブ

ウェルスのトリビア

シドニー郊外に住む中国人が、最低10人の仲間が盗んだ粉ミルクを安価で買い取り、中国に不法に送っていたことが分かりました。その中国人は判明時点までに、少なくとも何個の粉ミルクを送っていたのでしょうか?(答えは記事中に)

ページ上部へ戻る