第25回(最終回) 寄生虫を撃退せよ! 羊用ワクチン開発に成功

オーストラリアでは羊肉の需要が高く、消費者にとっては牛肉や豚肉に並び大変身近な食材となっています。また羊毛加工への関心も高く、さまざまな羊毛製品の製造・販売が行われています。しかし、羊の寄生虫症による被害例は数多く報告されており、飼育者はその防除のために多くの経済的・労力的負担を強いられているのが現状です。

最終回となる今回は、そんな危機的状況の救済策となり得る、画期的なワクチン開発についてご紹介します。

西オーストラリア(WA)州のサイエンス系総合情報サイト「サイエンスネットワーク」によれば、同州南端のオールバニーで過去25年間にわたり研究が進められてきた、羊のある寄生虫症に有効なワクチンが、来年下旬にも実用化する見通しとなっているようです。

■捻転胃虫は貧血を誘発

このワクチンは、豪農林水産省(DAFF)のオールバニー研究所と、スコットランドのモアダン研究所により共同開発されたもので、羊、ヤギ、牛などの第四胃に寄生する線虫「捻転胃虫(ねんてんいちゅう)」から羊を守る効果があります。

捻転胃虫は、赤と白のストライプ模様をしていることから、英語圏では「バーバーズ・ポール(床屋の看板)」という名前で知られており、WA州では西端に位置するカルバリから南端のエスペランスまで広範にわたりその被害が報告されています。捻転胃虫は羊にとって最も危険な寄生虫であり、吸血性で貧血を引き起こすことから、羊の目の下目蓋を捲って結膜の血色を確認し、白くなっている場合は要注意です。主な症状としては食欲不振、貧血、栄養障害などがみられ、衰弱死するケースもあります。

オールバニーで2008年からワクチン開発に携わっている家畜寄生虫学者のベシエ氏によると、研究対象となった羊は現在、捻転胃虫を駆除する目的で投与された薬剤に対し、耐性を持ち始めています。また、モアダン研究所の研究チームは最近、羊の胃の中で病的影響を発生させずに、捻転胃虫を培養することが可能であることを突き止めたようです。一方、野外実験では、過去3年間の研究により、致死未満量の捻転胃虫を子羊の体内で培養することの有効性が示されています。

■コントロールが鍵

ベシエ氏によれば、このワクチンを摂取することで羊の免疫システムが活性化され、抗原タンパク質やその他の免疫原性細胞に対して抗体が作り出されるようになります。そのため羊が捻転胃虫に感染すると、血中の捻転胃虫抗体は捻転胃虫が持つタンパク質を異物と認識し、免疫反応が起こります。これにより捻転胃虫は早い段階で駆除され、羊は悪影響を受けずにすむのです。

ベシエ氏によれば、今回開発されたワクチンはすでに豪殺虫剤・獣医薬当局(APVMA)に登録されており、認可されれば来年下旬までに市場で販売が可能になるだろうとしています。

寄生虫の駆除は羊を飼う上で大きな課題ですが、寄生虫を根絶することは不可能です。また羊に大敵の寄生虫であっても、生態系の中ではそれぞれの役割を担っていることから、これらの寄生虫により羊の健康が害されないよう上手くコントロールしていくことが必要といえそうです。

さて、1年半にわたりご愛読頂いたメイの羊講座は今回で終了します。新年からは新たな連載が登場しますのでお楽しみに。

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