第21回 生産の1割が無駄に!病気対策で食糧確保

小麦生産に大きな影響を及ぼす「さび病(rust)」。人口の増加を受けた食糧増産の取り組みで、収穫高をやみくもに引き上げるのではなく、植物の病気を防ぎ、その損失を減らすことで食糧確保につなげようとする試みが続いている。さび病の研究を行うシドニー大学のロバート・パーク(Robert Park)教授の講演に出掛けた。

今後見込まれる人口の増加で、世界の小麦生産は今後30年間で7割の増産を求められている。パーク教授は小麦供給を確保する方法として◆開墾による農地拡大◆遺伝子研究による収穫高の引き上げ◆さび病対策による被害削減─の3つを挙げ、さび病に耐性のある品種の開発が最も効果的だと主張する。開墾を進めれば森林が伐採されて地球温暖化が加速する恐れがあるほか、これまでに多大な成果を出した遺伝子組み換え技術による収穫量の引き上げも、近年はどんどん難しくなっていることが理由だ。「植物の病気は食糧生産を全体で3割減らしている。単純に計算して、病気を防ぐことができれば、現在の栽培状況のままその3割分生産が増えることになる」(同教授)という。

■「根絶はできない」

病気を防ぐといっても範囲は広い。さび病などの植物に壊滅的な被害をもたらす病気の原因となるのは菌(fungus)だが、無害なものも含めて全部で150万種類あるとみられており、これまでに見つかった種類は7万前後。一年間に発見される種類が1,200件前後であることを踏まえると、菌の種類が全部判明するのに1,100年以上かかる計算だ。それでもパーク教授は、さび病を含めた植物の病気について「根絶できないが、状況は改善できる」と前向きだ。

さび病の名前の由来となっているのは、この菌が飛散させる胞子(spore)で、さびがかった色をしている。風に乗って数千キロメートルを移動し、服に付いた状態でも数週間生きる。そのため感染拡大ペースが速く、被害も大きくなる。オーストラリアでさび病が大流行した1979年は欧州から、2002年は北米から、それぞれ服に付いた胞子が海外からオーストラリアに運ばれてきたのが発端とされている。現在も当局では、海外で農地を訪問した旅行者などに対し、検疫への申告や早急な服や靴の洗浄を求めている。

■技術革新進む

さび病の対策には、感染した植物の除去、農薬の使用、耐性ある品種の開発の3つがあり、遺伝子操作への反発もあるが、新種の開発が最も効率的で環境に優しいという。同教授によると、09年だけで、さび病に耐性のある小麦品種の開発により10億豪ドル(約984億円)以上の損失を防げた。農薬の使用も効果があるが、価格が下がったことから被害が出る前に「保険」として農薬を使用する農家が増え、今や「使い過ぎ(overuse)」による環境汚染が問題になっているそうだ。

技術の進歩を背景に今進めているのは、複数のさび病に耐性を持つ品種の開発。小麦の遺伝子構成は複雑だが、今では耐性を持つ遺伝子を「接着(glue)する」こともできるそうだ。

現在、「ug99」と呼ばれる小麦さび病の世界的な感染拡大が懸念されている。ウガンダ(Uganda)で1999年に発見されたこの菌は非常に強力で、感染が広がれば世界の小麦生産の3分の1に被害が出る恐れがあるという。

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