第9回 「豪州WAGYU生産の見直し必要」

 ベルツリー・オーストラリア代表・鈴木崇雄

現在日本で多く使われている和牛の系統構成を見てみますと、平茂勝を代表とする「気高系」と第一花国な どを代表とする「糸桜系」が多数を占めています。これは、品質もさることながら、枝肉重量を確保して経済性の高い牛を作ることへの現われだと思います。こ れら増体系の系統を上手に使いながら、品質の高い、肉量のある牛を作っています。近年の干ばつの影響による資料価格の高騰や原油価格の高騰による飼育経費 の上昇がこの風潮を後押ししているとも考えられます。

昨年10月に鳥取で行われた「全国和牛能力共進会」に豪州の和牛生産者とともに行ったときに、 現在の日本の和牛の体格の良さ、豊富な血統の種類に驚かされました。そこには豪州でイメージされている「WAGYU」のように、小柄で増体が悪く、繁殖能 力が低いといった特徴を覆す見事な雌牛群や、枝肉重量が500キロを超えるような肥育牛などが出展されており、日本の和牛の能力の高さを実感しました。

これまでの豪州の「WAGYU」生産の経緯の中でも気高系、糸桜系の血統を持つ種雄牛は使われてきました。しかしながら、脂肪交雑偏重の市場の中でそ れらの血統は但馬系の種雄牛に比べるとマイナーなイメージを持たれるようになり、一部の純血和牛生産者を除いてあまり使われることはなくなりました。

また、日本と豪州の繁殖牛群形成の大きな違いの1つに雌牛群の能力への配慮があると思われます。日本では、繁殖雌牛の産子成績を非常に細かく分析し、そ の雌牛の系統を上手に残しながら優秀な種雄牛を使うことによって、安定した成績の出せる肥育素牛を生産しています。豪州では、種雄牛の銘柄が先に出ること が多く、優秀な雌牛群の形成がなかなか進んでいないのが現状ではないでしょうか。こうした生産システムの違いを踏まえたうえで、これからの豪州の 「WAGYU」の牛作りを今一度見直していく必要があると思われます。

1つには、それぞれの血統の特徴を持っている系統を分離、形成しなおす必要が あると思われます。日本であれば、鳥取の気高系、島根の糸桜系、兵庫の但馬系といったようにそれぞれ異なった特徴の牛が存在します。現在の豪州には、但馬 系75%に糸桜系25%と言った混血の牛群が多数存在しますが、100%気高系、100%糸桜系といった牛群はあまり見受けられません。これによって、も ともと血統の種類に限りがある中で繁殖の選択肢が非常に狭められているように思われます。

もう1つは、現存する豪州「WAGYU」の中で次世代の種 雄牛候補を見つけ出すことです。今後、日本や米国から新しい血統が入ってくることは難しいと考えられます。そうした状況で、今まで基幹牛として使われてき た「MICHIFUKU号」、「KITATERUYASUDOI号」、「HIRASHIGETAYASU号」と言った牛の能力をしっかりと引き継いだ次世 代の種雄牛を作ることは、今後豪州「WAGYU」が残っていくためにも重要だと思います。これらの牛を発掘するためにも、きちんとした産子検定システムの 構築、肥育成績の集積が重要だと考えます。

上記のようなことを達成するのは個々の農家単位では難しいと考えられますので、今後きちんとした組織を作 り、達成していくのが理想です。そうすることによって、今後の豪州「WAGYU」の評価が世界的に高まっていくのではないでしょうか。日本の和牛の優れた血統は、日本独自のものです。それらは、日本という国の生産システム、牛肉需要に伴って形成されてきたものです。豪州の気候風土、肥育システムの中で安定 した成績の出せる牛を作ることが大事だと考えます。それが達成されれば、これからの豪州「WAGYU」は日本の優秀な技術を素に形成された世界的にもユ ニークな血統として発展できるのではないでしょうか。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。