第4回 「豪州で系統の大切さを実感」

ベルツリー・オーストラリア代表・鈴木崇雄

日本の和牛の系統は、大きく分けて3系統あります。兵庫県を中心とした「但馬系」、島根県を中心とした 「藤良系」、鳥取県を中心とした「気高系」です。各系統ともそれぞれに非常に優れた特徴を持ち、現在の日本の和牛の発展に貢献してきました。

1990年代に米国に渡った「WAGYU」もやはりそれらの系統を踏まえたものでした。但馬系では「MICHIFUKU」や「HARUKI 2」、「KITATERUYASUDOI」などが代表的な牛です。藤良系では「ITOHANA」、「ITOMICHI」、気高系では 「HIRASHIGETAYASU」などがいます。

米国、豪州にて「WAGYU」に求められていたのは脂肪交雑能力が主でした。それまで行われてい たアンガス種やマレーグレー種の長期肥育よりもさらに脂肪交雑の高いものを、「WAGYU」を使うことによって可能にするというのが目的でした。そしても う1つの目的はブランド効果です。「WAGYU」という名前が知れ渡るにつれ、「WAGYU」交雑と言うだけで商品価値が生まれていったのです。実際に は、「交雑」と言う部分も省かれ、「WAGYU」と言う名前が一人歩きしていたような状況もあったように思われます。

一般的に、豪州では牛の肥育成 績を公表することはありません。これは、1つには日本のような肉の格付け規格がないことと、もう1つには豪州で肉の取引が肥育成績、すなわち肉の品質に よってなされないことが反映していると思われます。日本の場合、枝肉は日本格付協会の格付員にて評価を受けます。枝肉は脂肪交雑、枝肉歩留まり、脂肪色、 肉色、しまり等が評価された上で枝肉格付けが行われます。その枝肉格付けを基に食肉市場において競売されるのが一般的です。格付けは競売の値段に反映さ れ、その格付け及び販売価格は生産者にフィードバックされます。豪州の場合、「WAGYU」の種雄牛生産者(この場合は繁殖農家)は肥育素牛農家に種雄牛を販売します。肥育素牛農家はさらに子牛を肥育農場(フィードロット)に販売します。肥育農場にて生産された牛肉は、AUS-MEATと言う機関によって 脂肪交雑、脂肪色、肉色等を評価された後、販売されます。ただし、一般的に販売価格はその肥育農場のオペレーションによって違うため、必ずしも肉の評価が 販売価格に反映されるとは限らない上、肉の評価、販売価格が生産農家までフィードバックされることは稀でした。

90年代後半から2000年代前半は 「WAGYU」の需要はうなぎ上りでしたので、種雄牛の評価や肥育成績よりも、数多くの「WAGYU」を生産することに重点が置かれていました。よって、 さまざまな交配の種雄牛が生産され、それらによって生産された「WAGYU」交雑種が肥育農場を経て日本をはじめとした市場へ販売されていきました。

このような経緯から、豪州にいる「WAGYU」の種雄牛はさまざまな系統の組み合わせのものが多く存在します。この種雄牛たちによって生産された子牛の 肥育結果がデータベースに積み重ねられるごとに、あらためて系統の大切さを実感しました。そして、その情報は生産者にフィードバックされなければいけない のではないかと痛感したのでした。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。