新・豪州Wagyuと歩む 第1回 和牛と歩んだ8年

シドニー近郊のブルーマウンテンに移り住んでから、今年で8年になります。もともと医者であった牧場オーナーの井上氏と知り合ってブルーマウンテンのメガロンバレーにある農場に居を構え、和牛繁殖、肥育をはじめました。当初は和牛肥育の施設も整わない中での見よう見まねの肥育作業でした。和牛を自社農場で肥育する事でオーストラリアの和牛の能力の高さを示したかったのと、まだまだ日本の品質にほど遠いオーストラリア和牛の市場に和牛本来の品質の牛肉を販売したいと言う思いから、今までこの地で和牛と歩んできました。

 

現在の当農場の生産頭数は月産2頭と少ないですが、地元ブルーマウンテンのレストランを始め、シドニーのレストランにも卸売業者を通して販売できる様になりました。2012年には新たに牛舎を増築して、ようやっと和牛生産の体制も整い始めました。

和牛本来の品質の牛肉を生産するという目的で、これまでさまざまな先輩方々から御指導を頂き、日本を含めた多くの農場を見学させて頂きました。牛肉を販売し始めてから今年で4年目になりますが、納得のいく品質の牛肉がなかなかできずに販売店やレストランの方々にもいろいろとご迷惑をかけて来ました。少量生産で限られた販売量にも関わらず、今まで私の和牛事業を信じて使い続けてくださった卸売業者の方やレストランのシェフがいたからこそ、この仕事を続けてこられたと実感しています。その中で今までのオーストラリアでの和牛生産を見つめ直し、オーストラリア方式の牛の飼養管理と日本の和牛の飼養管理の違いが牛肉の品質に与える影響の大きさを実感しました。

■脂の質をいかに高めるか

和牛の魅力と言えば何と言ってもサシ(脂肪交雑)ですが、その見た目以上に脂の柔らかさ、甘み、風味等が和牛を食べる人を引きつけるポイントであると思います。オーストラリアで一般的に肥育されるアンガス種やヘレフォード種と和牛(黒毛和種)ではこの脂の質に決定的な違いがあります。一般的に、和牛の脂は一価不飽和脂肪酸 (MUFA)の割合が他種に比べて多いのが特徴です。この不飽和脂肪酸の含有量が脂の融点を下げ、口溶けの良い上品な味わいになると言われています。和牛を育てるという作業の中で、この脂の質をいかに高めるかが高品質な牛肉を作り上げるポイントになってくるのです。いつ、どのような餌を牛に与えるかで、この脂質は大きく変わります。そこにこだわってこそ和牛本来の柔らかくて風味の良い牛肉を生産できると信じています。

現在の当牧場の飼養方式は、どちらかと言えばオーストラリアより日本の農場に近い飼い方になってきました。子牛の育成管理や肥育牛の牛舎管理等、日本の農場で一般的に行われている方式を取り入れています。これは、和牛を上質に仕上げるためには細かな餌の管理が必要になるからです。成長過程に合わせた飼料調整と、ストレスの無い環境を作る事で、バラツキの少ない良質な牛肉ができます。

餌の内容にもこだわって、脂質の良い牛肉を生産する事を目標にしています。

オーストラリアに和牛が渡って来てから既に18年近くの月日がたちました。オーストラリア産和牛の流通は対日本のみならず、東南アジア、ヨーロッパ等を含め世界中に広がっています。ただし、流通している和牛商品の品質はさまざまです。近年は、MRB(脂肪交雑)スコア指定で注文が来る等と言う事も常識となりつつあります。

また、日本からの高級和牛の輸出も近年盛んになって来た事によって、世界中の消費者の目も肥えて来ています。そういった状況の中で、和牛本来の品質を備えた商品を安定して提供できるような飼養管理システムの普及が、オーストラリア産和牛の将来を担うような気がしています。上質な和牛を生産し続ける事で、オーストラリア産和牛の評価も上がり、それを反映したオーストラリア和牛の品種改良にもつながって行くと思います。

公式SNSをフォロー

投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。