新・豪州Wagyuと歩む 第2回 砂漠で牧場を

ブルーマウンテンで和牛事業を開始してから、世界中のさまざまな方々から和牛に関する問い合わせが来る様になりました。オーストラリアの和牛事業は、この国の持つ「伝染病フリー国」と言う特徴を軸に世界各国へと発展してきています。牛肉輸出はもちろんの事、和牛の生体牛や精液、受精卵等の輸出も盛んに行われてきています。和牛の価値はその肉質にありますが、今やそのブームは世界中の牛肉生産者たちの中で広まってきています。

 

当牧場でも、過去にアメリカ、イタリア、中国、中東等へ和牛の生体牛や受精卵、精液等の輸出をしてきました。人工授精で交雑種(主にアンガス種との掛け合わせ)を生産し現状の肉質をもうワンランク上げる、オーストラリアから輸入した生体牛を基に自国内での和牛遺伝子の販売を軸にした新たな和牛事業を立ち上げる、受精卵で輸入した和牛子牛を基に繁殖をして和牛肥育事業まで行うなどがあります。

■コンサルティングを始める

私としては、せっかくお金をかけて和牛を輸入するのであれば、ぜひ本格的な和牛飼養管理の技術も理解してほしいと考えています。和牛の遺伝子(黒毛和種と言う品種)が広まれば、当然高級牛肉の生産、販売と言った事業が広がって行くと思います。

しかし、管理の仕方によっては思ったような肉質のものができない事が多く、最終的に和牛の価値を下げてしまう事になりかねません。また、繁殖の交配にしても、目的も無く和牛同士を掛け合わせれば、能力のある血統が産まれる事も期待できずに、後継牛の開発も後退して行く事になります。そのような観点から、現在私がオーストラリアで行っている飼養管理の実態を見ていただいて、現地での生産に役立ててもらうことと、現地での和牛管理のアドバイスをコンサルティングと言う形で行っています。その中のいくつかの事例を紹介したいと思います。

■1本の電話

中東での和牛飼育のきっかけは1本の電話からでした。「和牛の生体牛を輸入したいのですが?」とアラビア訛(なま)りの英語の電話が私の携帯にかかってきました。事情を聞くと資産家のプライベートファームでの飼育に和牛を飼養したいとの話でした。農場主は、日本にも何度も訪れた事があり鉄板焼きが大好物であると、ぜひ自分の農場で和牛を飼いたいとおっしゃっていました。

中東と言えば思いつくのは砂漠です。放牧地なんてありません。牛肉の消費はあるものの、そのほとんどがアメリカ、ブラジル、オーストラリアからの輸入で、肥育技術も何もありません。ただし、中東は乳製品の消費が多く、乳牛の飼育は盛んに行われています。牛がいるのであれば、飼料も手に入るだろうと考えていました。牧場主からの依頼で、牧場の設備のデザイン、餌の配合設計、飼育プログラムのコンサルティングまで請け負う事になりました。

■140頭がチャーター機で

2011年9月に、チャーター機で中東で初めての和牛牧場設立へ向けてシドニーから和牛60頭、乳牛80頭が飛び立ちました。私は事前に入国して、設備の仕上げ(着いた時にはまだ設備も完成していませんでした)、飼料の手配、生体牛受け入れの準備、スタッフとの顔合わせを行いました。

幸い、事前の打ち合わせで大方の飼料は手配済みで、牛舎の建築も牛を受け入れられる状態になっていましたが、スタッフの方は牛を見るのも初めてのような状態でした。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。