500号記念集中連載 オーストラリア酪農業、改革のゆくえ 「第5回 権利の確保」

2017年4月、オーストラリアの酪農加工最大手のマレー・ゴールバーン(現サプート)とフォンテラ・オーストラリア(豪フォンテラ)の2社が、生産者乳価を突如引き下げた。そのため酪農家は軒並み損失を出す羽目になった。この事件は酪農家と加工会社の力関係が著しく不均衡で、酪農家は不利な契約に縛られ、効率的な投資を実行するのも困難な状況にある、という理解が一般に広がった出来事となった。

オーストラリア自由競争・消費者委員会(ACCC)もこの事件に注目した。2017年に発表した業界調査の中間発表で「マレーと豪フォンテラが生産者乳価 を期中に引き下げたことが、酪農家に対し大きな打撃を与えた」と改めて強調し、その後酪農業界における乳業会社の『行動規範』の設定を提案するに至る。

このACCCの提案に対し、主要乳業会社は猛反発を見せ、行動規範』の義務化は加工業界のコスト負担を増やし、そのコストは消費者に転嫁されるだけ」と主張した。だが一連の問題で、常に生産者側に立ったリトルプ ラウド農相は、酪農業界の透明性は著しく低く 業界の将来性に疑問を持たざるを得ないと指摘し、 行動規範の義務化に支持を表明した。農相の表明を受け業界は意見調整を実施、2018 年に乳業会社と酪農生産者は行動規範を義務化することで合意に至ることになる。

■新行動規範、一方的変更を制限

業界の合意を受け、連邦政府はオースト ラリア酪農乳業協議会(ADIC)が作成した草案内容に修正を施し、19年12月に正式に行動規範を発表した。この行動規範は、生産者側の権限が著しく強化されたもので、酪農ロビー団体デアリー・コネ クトのモーガン代表は、「われわれが望んでいた内容がすべて盛り込まれた」と評価し、「酪農家にとって素晴らしい結果になった」と満足感を示している。

■生産者の権利確保

行動規範の策定に当たっての争点は、乳業会社側が契約内容を変更できるかという点だった。

この点について、連邦政府は最終的に、変更が可能なのは「法律の変更」があった場合と 「異例の事態」が生じた場合に限定した。しかも「法律の変更」時も生産者乳価の最低価格 の引き下げは不可とされ、「異例の事態」は輸出市場の突然の閉鎖や緊急のバイオセキュリティー問題に限られた。この場合も乳業会社は価格を引き下げる場合は、その意図をACCCへ報告することが必須とされ、農家に対しても 30日前の事前通達を行い、契約解除を求める農家に対しては応じなければならないと規定された。ともすれば強くなりがちな加工会社の権限を限りなく抑え、業界の透明性を担保するには、生産者側の権利を確保することが重要という政府の認識が見える内容となった。

この行動規範は 20 年1月に施行され、同7月からのシーズンで本格運用に入った。一部加工会社が乳価の公表の締め切り時間に遅れるなどの違反はあったが、ACCCが順守の徹底の呼びかけを強めていることもあり、大きな混乱はない状況だ。(続く)

公式SNSをフォロー