【QLD州政府駐日代表インタビュー】QLD州と日本の連携で商品競争力の強化を

日本とは季節が逆のオーストラリア・クイーンズランド(QLD)州。日本と同州が協力し、同じ農産物を通年で生産・供給することで、商品競争力を強化する─。この魅力的な構想の実現に力を貸すプロ集団が日本にいる。QLD州政府駐日事務所の面々だ。日豪の両市場を熟知する彼らは、専門知識を駆使し両国にまたがる事業を手助けする。このチームを束ねる安達健QLD州政府駐日代表に話を聞いた。【NNA豪州編集部】

─日豪貿易におけるQLD州政府駐日事務所の役割は?
QLD州の輸出事業を促進するのが主な役割ですが、これは大きく分けて二つの事業に分けられます。一つは日本企業がQLD州で行う事業の支援です。日本企業から「QLD州でこのような農産物はないか? こういったものが日本にはないから、QLD州で探してほしい」といったリクエストを受け、州内で生産者や食品加工の事業者を探し、生産を支援し日本向け輸出をサポートするという事業です。もう一つは、州内の生産者や加工業者が日本に輸出したい時にサポートすることです。

「QLD州の農産物は品質に定評がある」と安達駐日代表

─日本側からの要望はどういうものですか?
最も多いのは、野菜を日本では作れない季節にQLD州で栽培できないか、というご要望です。
最近の例では、紅芯大根をQLD州で生産し日本への輸出を支援しました。この野菜は中が赤くサラダなどで使われるものですが、日本の生産シーズンは11月から5月ごろまでです。日本の夏季は生産できず、また海外でもメキシコなど一部でしか栽培していませんので、ちょうど季節が逆のQLD州で作れないかという話になりました。現在ではキユーピーと三菱商事が共同出資したサラダクラブに卸しています。
そのほか、レタスが日本にない時期に輸出してほしいという依頼や、カボチャやスイカ、メロンの話もありました。青果に関する問い合わせが多いという印象です。

─リクエストを受けた後のプロセスは?
まず州政府から農家に声を掛けますが、ご要望のあった作物を栽培した経験がないと難しいということもあり得ます。その場合には州の農業・水産省と連携し、その作物のエキスパートからの指導・支援も得ることができます。
とはいえ、すべてすぐに成功するとは限りません。長期的には利益が出ても、問題となるのは短期的にうまくいかない場合の時間と経済的なコストです。州政府としては対策としてそのようなリスクを軽減できるような補助金制度なども整えています。例えば検疫の問題が発生した場合や、温度管理に関するサプライチェーン上の問題が出た時、廃棄量が想定以上になるなどの問題が発生する可能性がありますが、その場合のリスクを州政府がサポートすることで、ステークホルダーが事業に参加するハードルを下げ、安心して取り組んでいただける仕組みを準備しています。

─QLD州の生産者の取り組み具合は?
日本からの生産リクエストに対して、手を挙げる現地農家は多いですね。日本の市場に魅力を感じていることがありますし、何よりも親日的な農家が数多いという印象です。日本とビジネスをしたいという意欲も高く、それはやはり取引先として日本に対する信頼性が強いということなのだと思います。問題があっても真剣に問題解消に向けて双方で対応し、支払いもきちんとしているという評価をよく聞きます。そのため、QLD側の農家も非常にやる気が旺盛ですし、協力的です。

─QLD州の野菜の品質は?
例えば、先ほどの紅芯大根などは、州政府がさほど育成支援しなくても問題ない品質のものができました。一方で実際に品質を日本レベルにするには大変な作物もあります。ブロッコリーなどは、ブリスベンから横浜まで船で運搬する間に質が低下するなど問題が起きています。ブロッコリーのプロジェクトは今年で5年目に入りました。

他国産に比べ大きいと評価の高いQLD州のブロッコリー

そのほか品質に関しては、レタスが良い事例になると思います。実はレタスは簡単そうに見えて、害虫が付きやすいのです。虫がいる場合、くん蒸しますが、ガスが多いと作物にダメージを与えます。そのため現地でガスの量を減らした状態で、品質を下げることなく害虫だけを死滅させ、出荷できないかという研究支援を州政府として行っています。
ただ、一般的にはQLD州は土壌が良いということからも、農産物の品質は良好だという声を聞く機会の方が多いですね。オーストラリアの農業が目指している「クリーン&グリーン」というイメージ通り、高品質の野菜が生産できていると思います。

─コストはどうでしょうか?
実際にオーストラリアは人件費が高めですから、この事業だけで最初から大きく儲かるというビジネスではないかもしれません。ただし日本側にとっては、通年供給が確保できるという利点があり、QLD側にとってもマージンは比較的低いものの、日本市場のマーケットの大きさが拡大するにつれて利益も期待できると信じています。またQLD州の生産者にとっては、野菜の生産がメインの仕事ですから、輸出の知識もスキルも最初はあまりないところが多いです。そうした生産者と輸出業者とのマッチングも州政府が行いますが、これにより輸出ビジネスに参入できることも国内だけに頼っていた現地生産者にとって利点になるでしょう。
また、通年供給の例では、最近は日本の輸入業者からスイカを冬に輸入したいというご要望が目立ちます。夏の果物であるスイカをいつでも供給したいというニーズに応えることができる、それが大きな利点になるのだと思います。ちなみに冬は中身が黄色のスイカに対するリクエストが多いですね。普通の赤いスイカは夏のイメージですが、黄色のスイカを日本の冬に輸入しカットフルーツ用に使うということです。これは季節が逆であることを活用した良い例だと思います。

─品種の管理はどのように?
日本の企業から青果をQLD州で生産したいという要請があった場合、まずはタネが入手可能かどうか確認します。その場合、サカタのタネやタキイ種苗といった種苗会社に協力を求めます。また、青果の品種も知的財産の一つになりますが、日本で流通している品種をQLD州で生産するという場合に、今まで知財が問題になったことはありません。
実際にQLD州で栽培が始まる時には自治体に届け出を行いますが、注意すべきことは、日本の作物がおいしいからといって、それが地元農家の生産している類似作物の売り上げや流通の阻害になってはいけない、ということです。新規のプロジェクト実施時には、オーストラリアの生産者団体とも協議を行いますが、QLD州の現在の農業と補完的なウィンウィンの関係になるかを確認します。

─では、地場生産者向けの日本進出支援は?
QLD州の生産者などから日本へ輸出したいという要望を受けた場合は、日本の商社などポテンシャルがあると思われる取引先に対し、コネクションの開拓を行ったりします。商品は生の青果物やフリーズドライの果物、パウダーやジュース、お菓子の問い合わせも今までありました。
実際に問い合わせがあると、まずはコンサルティングを行い、日本市場への進出目的や予定出荷量などを確認します。日本市場に対するリサーチが足りない場合は市場の情報提供から始めます。具体的な検討が既に済んでいる場合には、日本の流通業界への橋渡しを行います。
日本企業にプレゼンテーションをしてもらい、その情報を生産者と共有して、ニーズに合わせることも行います。イオンなどの大手スーパーをはじめ、少し値段が高めでも高品質の商品を入れたいというスーパーの成城石井やカルディなどにも、QLD州政府駐日事務所の支援を通して納めたQLD州の商品は、たくさんあります。

─QLD州農産物の日本市場での評価は?
日本全体のマーケットに比較すると、納めている量はまだまだ少ないので評価はこれからという側面はありますが、まず消費者にとってオージービーフは安全で安心して食べられるという評価はいただいています。また、スーパーのバイヤーからも、米国産に対して価格はやや高くても、高品質だという声はよく聞きます。ブロッコリーなども他国産に比べ頭の部分が大きいなど、求める品質に応えているという評価です。

─日本の関係者に伝えたいことは
QLD州とのビジネスに関してのご相談に対応させていただいております。州政府の立場として客観的な視点で、かつローカルの知識やネットワークをフルに活用してご支援させていただいております。農産物の輸出入だけでなく、アグリテックや食品加工業などのお問い合わせにも対応します。何か探しているものがあれば弊事務所までお気軽にご相談ください。

【事務所概要】
クイーンズランド州政府駐日事務所
電話:03-6841-0437
メール:Junko.Akutsu@tiq.qld.gov.au(担当者:安久津)
住所:東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー15階

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