マフィン

早く帰宅すると、たまに近所のパブに寄る。初めてドアを押した日、スツールに腰かけてビールグラスに口をつけると、何かが視界を横切った。犬だった。毛の短い、白い犬だ。歩いていく先には、やせた白髪の男性が椅子に座り、背中を少し丸めてテレビのニュース映像を眺めていた。犬はお座りをして、飼い主を見上げている。老人はゆっくりとビールを飲み干すと立ち上がり、犬と一緒に出て行った。

そのパブに行くと大抵、老人と犬に会う。たぶん毎日の散歩の途中なのだろう。いつも1杯だけビールを飲んで出ていく。ある時、目が合ったので、「利口な犬ですね。何という名前ですか」と聞くと、「マフィン」と答えた。

先日、通りで犬を見掛けた。犬が信号のない道を渡ろうとした時、「マフィン!」という声が後ろから聞こえた。犬はその場で止まり、声の主を振り返った。なぜか、老人には家族はおらず、1人と1匹で暮らしているのではないかと思った。(短吉)

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